情報誌「TOMIC(とおみっく)」

56号 2017年10月発行(4/4)

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TOMIC56号 日本経済の成長とエネルギー〜海外のエネルギー事例から考える日本の現状と未来〜

島国日本が陥るエネルギー安全保障のリスク

ドイツは現在も再生可能エネルギーを推進し、原子力発電を2022年にすべて停止して、温暖化対策のために石炭火力も減らす方向に動いています。その一方で、ヨーロッパでは原子力発電を推進する国も現れ始めました。イギリスでは新しい原子力発電所の建設を政府が支援していますし、水力発電が中心のフィンランドでも新設が進んでいます。またスウェーデンでは古くなった原子力発電所を建て替える計画です。

EU28カ国内でも、エネルギーに関する施策はそれぞれに違います。自分の国がどうすれば温暖化対策に貢献でき、自国の経済も成長させられるのか、それを考えてエネルギー政策を立てています。一見バラバラのようですが、EU全体でみるとじつにうまくバランスがとれているのです。

陸続きのヨーロッパでは送電線網が整備され、電力を融通し合うことができます。ドイツが再生可能エネルギー政策を進めたとしても、万一の場合は周辺国から電力を買うことができます。EU全体でもってエネルギーの安全保障を担保しているのです。

ヨーロッパには2006年と2009年の冬に、ロシアから天然ガスの供給が止められた苦い経験があります。このときは凍死者も出るのではと大きな騒ぎになりました。いかにエネルギーの安全保障が大切かが身に染みてわかっているのです。

日本は1973年のオイルショックなどを経験しましたが、供給が途絶するような事態にはなっていません。いままで何もなかったので、エネルギーの安全保障と言われてもピンとこないのです。けれども日本のエネルギー自給率は6%しかなく、ヨーロッパと違って他国と陸続きで送電線がつながっているわけでもありません。万一、エネルギーの供給が途絶えたら大変なことになります。

子どもたちの未来のために、いまできること

エネルギー問題は3E(※)と言われている3つの観点から考えることが大切です。もし温暖化対策を原子力発電なしで実現しようとすると、電気料金がとんでもなく高くなります。これでは家計が立ち行かなくなり、産業の競争力も失われてしまいます。世界の電源別発電量の予測では、2060年には原子力が15%を占め、その発電量は現在の3倍になると考えられています。世界では、原子力発電なしに温暖化対策はできないという認識なのです。

本当に子どもたちの将来を考えるのであれば、安全を大前提とした原子力発電所の再稼働は避けて通れません。製造業が元気にならないと日本全体が元気にならず、回復のためにはエネルギーコストを下げる必要があるからです。エネルギーコストの上昇が家計を圧迫し続ければ婚姻率や出生率の低下を招き、少子化にも歯止めがかからないでしょう。労働力人口の減少につながる少子化問題は、製造業の拠点のひとつである九州にとってもまさに死活問題です。

エネルギー問題については適切な知識を持ち、議論をしながら方針を決めていく必要があります。けれども日本では、こうした問題に対する教育が欠けていると感じます。子どもたちの未来のためにも、エネルギーについて長期的視野に立った正しい知識を学び、一人ひとりが真剣に議論することから始めていく必要があると思います。

 
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